四万十川物語(リレー・エッセー) 9 |
[プロフィール(南寿吉)]
[プロフィール(田所賢一)]
・寓居 前四万十市渡川町
現高知市横浜
・生誕 昭和26年某月
・趣味 樋口眞吉
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■四万十川埋木アカガシに寄せて
人は何故巨木をみて感動するのか。
樹を前にすると不思議な敬虔な気分になる。この樹と比べた自分という存在の卑小さをしみじみと実感する。
その理由を私はこう考える。人にとって時間はとらえようのない移ろうもの、流れ去るもの。しかしこの樹には時間が蓄積している、凝縮されている。この違いが人を感動させるのだ。
人は同じように川の流れを見ても来し方、行く末を思い感慨にふける。流れ去るもの、そして蓄積するもの。
孔子はこう言うた『逝くものは斯くの如きか昼夜を措かず』(「川の流れをご覧。ひるよる絶え間なく流れるのだ」)。降る雪に感動して明治を思った俳人もいた。流れ去るもの、積もっていくもの。
この相反するかのような川と雪のふたつが人を思いに駆り立てる。日頃は日常性に埋没している自己を取り戻すかのように。
自分は流れ去るのか、いや降り積もるのか。無為という自覚があれば、流れる水かもしれない。確かに歳を取ったという思いがあれば降り積もったのか。
白髪は三千丈に及んだ。馬齢は重ねた、白髪は両鬢を被い、肌膚(はだ)は再び若い頃の輝きを取り戻すことはない。我に五男児ありと雖も全て紙筆を好まず。好んだところでそれがどうなんだ。何をくよくよ川端柳、川の流れを見て暮らす。
行雲流水という言葉がある。人の様々な所業も煎じ詰めれば何のことはない。浪速のことも夢の又夢。石に刻んで何になる。でも人は苔むした石碑を見れば何が刻んであるか読みとろうとする。刻んだ人の気持ちを汲む。樹に刻まれた年輪を思う。
四万十川から掘り出された巨木アカガシは時間の缶詰です。1400年間川底にあった樹木。そしてそこに流れ着き、川砂の中に埋没するまでに生きて過ごした山の中での春秋。
彼の近くに茂っていたであろう木々達。樹蔭で繰り返されたであろう鳥、そして獣たちの饗宴。このアカガシは我々に大いなる想像の翼をあたえてくれる貴重なきっかけです。
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[ひとくちメモ]
■2000年の時に触れられる四万十川の埋没巨木「アカガシ」
平成6年5月、四万十川下流の護岸工事で発見され、引き上げられた巨木を見て、澤良木庄一さんは、『これは四万十川の主だ!』と、思ったそうです。
その四万十川の埋没巨木「アカガシ」は7本。(うち1本は発掘中に4分割)最大のものは根元直径3.5メートル、長さ16メートル、重さ約6トン。
【写真】引き上げられた時の「アカガシ」
以来、澤良木さんは、「巨木を考える会」の会長として、このアカガシとの付き合いが始まり、未だ謎は尽きないが、「主」の正体が少しずつ見えてきた、という。
樹齢は5-600年、約1400年前の洪水で流されてきたアカガシ亜属。発見された場所から3ー5キロ上流(入田のヤナギ河畔林付近)がふるさとで、かつてそのあたりは巨木の生い茂る原始林であったと考えられる。
だが、千年以上もの時の流れを経た「四万十川の主」の保存には苦労が絶えなかった、といいます。四万十川の水の中の安定した環境から、大気にさらされる厳しい環境になると乾燥が進み、樹皮がボロボロと剥がれ落ちてきた。
そこで、近所の子供達に手伝ってもらい「四万十川ジェームスボンド作戦」を決行、巨木の表面をボンドで塗り固めたそうです。(その時の様子を「出放題」が取り上げています。【下記】)
現在、この四万十川の「主」、埋没巨木「アカガシ」は、四万十市の防災センターに移され、澤良木さんの発案で、立てて展示されています。
『四万十川の主には、まだまだ生きていた時の姿で、四万十川の2000年の時を語ってもらいたいですからね。2000年の「時のロマン」を追求しているようなもんです。』と、澤良木さんは楽しそうに語っています。
◆澤良木庄一氏の『四万十川物語』
[参考]
◆四万十川河床から出土した巨木
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[おまけ・四万十川新聞「文芸欄」より]
■四万十川の出放題
ニュース (平成13年1月高知新聞)
巨木群のひび割れを防ごうと地元の子供らがボンドを塗りこんだ。
川底で発見の巨木群を補修
底辺が広がるかも・・
ー四万十川ー
巨木を考える会殿
(高知・直ちゃん)
<高知新聞コラム「出放題」>
【平成6年5月に、建設省(現国土交通省)の四万十川の河川改修工事現場から、1400年前に埋没したアカガシ亜属巨木群が発見されました。東北大の鈴木助教授が外観上明らかに異なる2本を除いてアカガシ亜属と同定しました。(他の2本はムクロジと同定)地元の工事事務所が保管していますが、乾燥によるひび割れが激しいため、「巨木を考える会」(代表・澤良木庄一氏)が地元の小中学生らと 、「四万十川ジェームスボンド作戦」と銘打って応急処置をしたものです。(13.1.14)】
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[リレー・エッセー] 第10話 予告
■上林暁のこと
次回は、故山原健二郎氏です。共産党の衆議院議員として1969年に初当選以来30年間、国政の場で常に庶民の立場に立ってご活躍されました。「新春女性のつどい」(2000.1.16:中村市)での、お話しです。
「四万十川の青き流れを忘れめや」と詠んだ上林暁に関するエッセーです。また、山原さんは、高知市の居酒屋「とんちゃん」の常連さんでした。その「とんちゃん」に関わるコラムは、山原健二郎氏の【四万十川百人一首】に、掲載されています。