論壇:限界集落(大野晃氏) |
【写真】限界集落/椿山(高知県池川町・現仁淀川町)
<井上 強・写真集「自賛他賛」より>
■山村環境社会学序説・その3
大野氏の専門は環境社会学。
徹底した現場主義者で、地下足袋でリュックを背に歩き、集落に泊まり込み、住民からひざ詰めで話を聞く、大野流の調査スタイルは30年間変わりません。北海道から沖縄まで訪ねた集落は150を超えるといいます。最近は欧州の山村集落の調査にまで出かけています。
廃屋が雑草に覆われ、一つ二つと集落が消えるさまを見るにつけ、画一的な国の過疎対策に疑問が募り、「34年間に76兆円も使って、道路とハコモノを造っただけ」と手厳しい苦言を呈しています。
また、実情にあった施策を地域が決める地方分権の必要性を説き続けています。
「人が住まなくなると、山が荒れ、川や海の環境が悪化し、鉄砲水も起きる。国土保全の全面からも重大で、決して対岸の火事ではない」という受賞の言葉は、自分は無関係だと思いがちな都市住民への強烈なメッセージとして重いものがあります。
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◆大野晃教授の地下足袋に・・・
原 剛:「農から環境を考える」(集英社新書)より)
■衰退するスギ山集落
大野晃教授の地下足袋に踏まれて、林床の落枝、落葉がポキポキ、パリパリと乾いた音をたてた。【写真】線香林
山並重量たる四国山地の谷あいに、平家の落人集落がひそむ高知県長岡郡大豊町奥大田。南国土佐の、まばゆい夏の陽も、スギ林には、ほとんどさしこまない。陰気で暗く、生き物の気配すらない。
隣り合うクヌギ、カシの広葉樹の森に踏み込む。足元は分厚い腐葉土に音もなく包まれ地下足袋の指先にたちまち水がにじんでくる。
スギの植林地の向こうには、息詰まる光景があった。放棄された畑が連なり、廃屋群がスギ木立にのみこまれつつある。
伸び伸びる 床突き抜けて 孟宗の
人去りし廃屋(いえ) むら絶えし山村(やま)
高知大学文学部(94年当時)大野晃さんの短歌に危機感がにじむ。戦時中に伐採された山林を緑化しようと、林野庁は膨大な補助金をあて、生長が早く加工しやすい、高値のつくスギ、ヒノキを全国で一斉に植林するよう指導してきた・・・[more]
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